事件はまさに現場で!!

 先日、初めて医療通訳を入れる、という病院に行ってきました。

これまで一体どうやって乗り切ってこられたのか? 興味のあるところです。

聞けばiPadを介してテレビ電話形式で行っている、とのことでした。「患者は素人なので一般通訳でよいのではないか、という判断に基づき、医療通訳者への依頼はしてきませんでした。でもやはりそれでは限界があることから、今回新たに医療通訳者の導入を決定しました」と説明して下さいました。

 

医療通訳者やこれから目指される方々は通訳の訓練はもちろん 医療の勉強も熱心にされています。それは背景知識があれば通訳しやすいからにほかなりません。医師や看護師のような深い知識は必要なくても 広く、浅く、ある診療科の特定の病気というのではなく、様々な病気の内容、医療制度、使える医療補助、薬剤、保険、患者の文化的特徴 などなど背景に持っていたほうがよい知識は数知れず日々勉強の積み重ねですね。常にアンテナを張り、ちょっと耳に入ってきたことも逃さずストックしていきたいものです。

その背景があってこその医療通訳者です。

 

もう数年前でしたか、動脈管開存症の手術をしたお子さんの術後のフォローアップに医療通訳者としてアテンドしたことがありました。 診察が終わった頃、同席していたソーシャルワーカーが医師にこう質問されました。「先生、このかたに通訳は必要ですか?」医師は英語を話される方でしたので、ソーシャルワーカーとしては少しでも通訳費用を押さえたいという意図もあったのかもしれません。

医師はこう答えられました。「この患者さんは僕に話せないことを通訳さんには話しています。なので、この患者さんには通訳が必要です。」と。ここまで外国人患者に深い理解を示される医師は珍しく 強く印象に残りました。 

診察室ってとても緊張するところだと思います。診察室でリラックス出来る方なんてなかなかいないのではないでしょうか?

医師という、大げさに言えばこちらの生殺与奪の権を握っている専門家、 かたや何を言われることかと心配に打ち震えつつ、祈るような気持ちで医師の前に出る素人の患者。その圧倒的な力関係のギャップの上にさらなる言葉の壁。想像以上の不安を抱えて診察室に入る患者さんに少しでも寄り添って受けたい診療が受けられるように 通訳者は心を尽くします。

そのために 診察室に入る前には出来るだけ患者さんと言葉を交わし、信頼関係を構築しておきたい、と思っています。よい関係を築けるかどうかがその日の通訳が満足のいくものになるかどうかの重要な鍵を握っている、と考えています。中にはなかなか打ち解けて頂けない患者さんもいて苦労することもありますが、やはり気持ちはいずれ通じる、と信じて諦めることはしません。

医師の説明が理解できたか? 質問はないのか? 症状ではなく不安な気持ちを聞いてもらいたいのではないか? 言いたいことが言えて納得の診療が受けられたのか? その前に言いたいことを言える雰囲気を作ってあげられたか? 

などなど 最初から最後までしっかりと推移を見極めつつ、臨機応変に対処できる医療通訳者になりたいと思っています。

医療通訳の世界においてもICT化が進んでおり、それぞれに利点があるでしょうから、医療通訳者と共に上手に使いこなしていければ理想的です。

ただ、患者に寄り添う医療通訳者を使用するメリットは、機械翻訳やその他のツールを介した通訳の手の及ばないところにあるのではないかと考えます。事件はまさに現場で起きているのです。患者さんが醸し出す微妙な雰囲気や変化はそばにいてこそキャッチ出来ますものね。(Y.Y