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医療通訳制度普及のための活動を思う

 地域で医療通訳制度の普及活動を続けてきました。活動当初の記録を読み直し、続けることの難しさを感じています。日本の医療通訳制度普及が進まない話をするとき、同じ話が繰り返されます。

「日本は難民を認めていないから法整備も財源確保もできない。」「外国人だけ特別扱いするのはおかしい。」「人権」では制度の普及を説得するには「弱い」。自己責任論。など、できない理由は続きます。

 制限の中にあっても制度普及のためのさまざまな努力は続いています。通訳者の質を確保し、医療機関での通訳実習が行われています。AI技術の進歩はめざましく、電話通訳業サービスの拡がりは稀少言語も含め地域格差ない通訳サービスの普及に貢献しています。

 また、地域によっては、医療通訳がかかわる様々な分野で連携が進み、講習会が開かれています。一方、有志による医療通訳活動がようやく始まったという地域のニュースも聞きます。医療通訳制度を語るとき、概論も大切ではありますが、様々に異なる地域の現状も同様に理解し、政策立案につなげることが必要です。

 今、コロナ禍の中にはありますが、外国人旅行者の入国が再開され、また、技能実習制度の見直しが始まります。国内外の社会情勢の変化の中で、建前と実情の乖離など様々な矛盾をかかえながら前に進もうとしています。

 医療通訳は人権問題。医療通訳制度も、医療機関や外国人、そして医療通訳者が現場からの声を上げ、関係者に伝え、話し合い、課題解決、制度確立につなげることの大切さを、今、改めて思います。

 はじめにあるのは制度ではなく人間です。医療通訳制度普及が財源不足、法的根拠の不在にある中、是非、技能実習制度の見直しが始まるというこの時期に、人権擁護の観点から横断的に同時に論じることができれば、ひとつの突破口になるのではないかと思うのです。

 また、医療通訳者がすでにかかわっている精神医療や発達障害、母子保健、健診、感染症、難病、介護保険、障害などの各分野においては、改めて、全国の医療通訳利用の現状を把握し、行政もともに関り、医療機関、患者、通訳者の立場から適切な運用の在り方を確認・検討するというきめ細やかな対応が進むことが必要です。

 言葉に壁のある外国人のための支援として、通訳サービスが確実に制度化されるよう、関係各省庁、地方自治体、保健所、外国人、外国人支援団体、通訳者団体など関係者が各々その役割を果たし、実現のために連携することを願います。医療通訳制度の普及とは、このような地道な取り組みがあって進むものではないでしょうか。(HM)